2025.09.30
【社員インタビュー続編】あの「CO2みかん」が、今度はデニムに!? 進化する蒲郡の炭素循環プロジェクト
【社員インタビュー続編】あの「CO2みかん」が、今度はデニムに!? 進化する蒲郡の炭素循環プロジェクト
前回の振り返り
かねまき: 川瀬さん、本日もよろしくお願いします!前回のインタビューで伺った「蒲郡市のハウスみかんとごま油の企業がCO2で繋がる」というお話が非常に印象的でした。あれから、プロジェクトに何か具体的な進展はありましたか?
川瀬: こちらこそ今日もよろしくお願いします!そうなんです、あれから大きな進展がありました。蒲郡市での取り組みは、年間でせいぜい100kgのCO2回収だったんですが、今まさに私たちの小牧工場に建設中の新しい回収システムが完成すれば、なんと年間500トンものCO2が回収できるようになるんです。
かねまき: 500トン!規模が全然違いますね!
川瀬: ええ、大きくレベルアップします。しかも今回のシステムには、CO2を冷やして液体にする「液化装置」も導入したんです。これによってCO2がぐっと運びやすくなるのはもちろん、純度を99.95%まで高めることができるので、これまで難しかった食品利用や溶接といった、より繊細な管理が求められる分野にも活用できる可能性が広がりました。
なぜ「みかん」だったのか?CO2と農業の新たな関係
かねまき: 改めてお伺いしたいのですが、そもそも、なぜ数ある地域産業の中で「ハウスみかん」だったのでしょうか?このプロジェクトが本格的に動き出すことになった経緯を、もう少し詳しく教えていただけますか?
川瀬: もともと、蒲郡市がサーキュラーエコノミー(循環型経済)に非常に力を入れていると聞いていて、ぜひ一度お話をお伺いしたいとずっと思っていたんです。そんな時、本当に偶然のご縁で蒲郡市役所の方と繋がることができまして。
かねまき: まさに、想いが引き寄せた出会いですね!
川瀬: そうかもしれません。私たちのCO2回収・利用の取り組みをお話ししたところ、すごく興味を持ってくださって。「それなら、こんな産業はどうですか?」といくつか候補を挙げていただいた中の一つが、蒲郡のハウスみかんだったんです。地元の方に「蒲郡といえば?」と聞くと、必ずと言っていいほど名前が挙がる、地域で本当に愛されている特産品です。
かねまき: なるほど。
川瀬: ただ、そんなハウスみかんにも「後継者問題」という大きな課題がありました。みかんの木って、一度植えると30年から50年も収穫できる、すごく息の長い産業なんです。つまり、今植えた木は、少なくとも2055年頃まで収穫が続くことになります。一方で、日本は2050年までにカーボンニュートラル達成を掲げていますよね。ハウス栽培はエネルギーを多く使うため、将来的に何らかの形でハウス栽培が難しくなるのでは…という不安が、後継者不足の一因になっていたんです。
かねまき: 地域で愛される特産品の未来が、エネルギー問題で揺らいでいた、と。
川瀬: はい。だからこそ、私たちが取り組む意味があると考えました。私たちの地域CCU技術を使えば、地域にCO2を“排出する”農業から、地域のCO2を“吸収する”農業へと転換できる。地域に愛されるハウスみかんの未来を、技術で守ることができるんじゃないか。そう思って、このプロジェクトをスタートさせたんです。
みかんの皮がデニムに?!驚きの循環ストーリー
かねまき: そして、ここからが今回の本題です!そのCO2で育ったみかんの「皮」を繊維にして「デニム」を作られると伺いました!正直、初めて聞いたときは本当にびっくりしました。このユニークなアイデアは、どんな会話やきっかけから生まれたんですか?
川瀬: 驚きますよね。実はこれ、私たちがある課題に直面していたことがきっかけなんです。私たちがCO2を回収するには、やはりそれなりのコストがかかります。それに、せっかくCO2を使って作物を育てても、収穫後の皮などが燃やされてしまえば、またCO2として大気中に戻ってしまいますよね。
かねまき: あ、確かに…。なんだか、もったいないですね。
川瀬: そうなんです!そこで重要になるのが「炭素固定期間」という考え方です。これは、回収したCO2が、燃やされるなどして再びCO2に戻るまでの期間のこと。私たちは、この炭素固定期間をできるだけ長くして、投入したエネルギーを無駄にしない挑戦が必要だと考えていました。そんな時、まさに私たちがCO2でみかんを育てているのと同じタイミングで、蒲郡のみかんの剪定枝から繊維を作り、ジーンズを製造している会社があることを知ったんです。
かねまき: そんな偶然が!
川瀬: はい。その会社、Curelabo株式会社さんは、果物の皮や枝といった農業廃棄物をアップサイクルして繊維を作り、製品開発をされていました。この技術を知ったとき、「これだ!」と。私たちが抱えていた課題を解決してくれる、まさに運命の出会いだと感じて、すぐに連絡を取りました。そして今、共同でズボンの試作品を製作しているところで、まさにこの記事公開される9月中には完成する予定です。

CO2回収の、その先に。川瀬さんが本当に描きたい未来
かねまき: この「みかんデニム」プロジェクトは、川瀬さんがおっしゃる「CO2回収だけではできないこと」をまさに体現されていますね。この取り組みを通じて、川瀬さんが本当に実現したい「その先にある未来」とは、どんな社会なのでしょうか?この「CO2回収だけで終わらない循環」に強くこだわられる理由を、改めてお聞かせください。
川瀬: 私は、意識的に「脱炭素」よりも「炭素循環」という言葉を使うようにしています。もちろんCO2排出量を減らすことは大前提として重要です。でも、そこにばかり注目すると、「我慢」や「負担」といったネガティブなイメージが先行して、具体的な解決策が見えにくくなってしまう。
かねまき: 「電気をこまめに消そう」とか、「エアコンの設定温度を上げよう」とか、確かに少し我慢のイメージがあります。
川瀬: ですよね。一方で、「炭素循環」や「サーキュラーエコノミー」は、今あるものを“資源”と捉え、それを繰り返し利用し続けるモデルです。“資源を生み出す”ということは、すなわち“新しい経済活動を生み出す”ことにつながります。「減らす」だけでは見えにくい、経済の成長や新しい事業の創出といったポジティブな可能性が、炭素循環には秘められているんです。
かねまき: 「守り」の脱炭素から、「攻め」の炭素循環へ、というイメージでしょうか。
川瀬: まさに!日本のように資源が乏しい国はもちろん、地球上の資源は有限です。限りある資源を使い続けられるように社会の仕組みそのものをアップデートできれば、資源の枯渇に怯えることのない、もっと豊かな生活が実現できると信じています。「減らす」や「負担」という発想ではなく、「資源を生み出し、しっかり稼ぐ」。これこそが、環境問題を持続的に解決していく理想的なアプローチではないでしょうか。
循環のリアル。「大変さ」と「醍醐味」
かねまき: CO2を回収するだけでも大変なのに、それを資源として利活用して、さらにその先の製品にまで繋げる…。この一連のプロセスの中で、最も「これは大変だった!」というエピソードや、逆に「これぞ、この活動の醍醐味だ!」と感じた瞬間があれば教えてください。
川瀬: 正直なところ、まだ始まったばかりのフェーズで、毎日が課題との戦いです。課題は大きく分けて、①コスト、②資源量、③共感の3つに集約できると感じています。まずコストですが、CO2から何かを作ったからといって、製品の品質が劇的に向上するわけではありません。むしろ、既存の大量生産品と比べてコストが上がることの方がほとんどです。「環境にいいから」という理由だけでは、なかなか手にとってもらえないのが現実ですね。
かねまき: なるほど、価値をどう伝えていくか、ですね。
川瀬: 次に資源量です。「廃棄物」として出る量と、「資源」として必要とされる量が常に一致するわけではないんです。このミスマッチが、ビジネスとして規模を拡大していく上での大きな壁になります。そして最後の「共感」。私たちの新しいビジネスモデルを深く理解し、一緒に汗を流してくれるパートナー、そして何より、想いに共感して製品を選んでくれる消費者の皆さんの力を得ることが、今後の大きな鍵になります。
かねまき: どれも一筋縄ではいかない課題ですね…。
川瀬: ええ。これらの問題は一つひとつが独立しているわけではなく、複雑に絡み合っています。一つの企業だけで解決できるものでもありません。だからこそ、個人や企業が「自分たちの地域にとって、どんな未来が理想か?」という大きな視点を共有し、一つずつ解決に向けて進んでいくしかない。でも、そうした活動の一つひとつが、地域の結束を深め、その土地ならではの産業や仕組みを生み出していく。それこそが、地域への愛着に繋がっていくんじゃないか…と、そこに大きな可能性と醍醐味を感じています。
私たちと地域CCUのこれから
かねまき: この「みかんデニム」、私たちも実際に手に取ることはできるのでしょうか?この製品を通じて、私たち生活者にどんなメッセージを受け取ってほしいとお考えですか?
川瀬: はい!このみかんデニムは、9月に開催される「CCUS EXPO」という展示会で初めてお披露目しようと考えています。その後、少量ではありますが、販売することも計画しています。私たちがこのデニムで伝えたいのは、日常のちょっとした選択が、世界を変える楽しさです。

かねまき: 世界を変える楽しさですか。
川瀬: おそらく、多くの方がこのズボンを手に取っても、普通のデニムとの違いは、いい意味で感じないと思うんです。でも、その生地が、もともとは工場の煙突から出ていたCO2で、それが一度みかんになって、今、自分の手元にある。そして、このズボンを長く履けば履くほど、地球環境への貢献に繋がる。これって、ちょっと新しい体験だと思いませんか?
かねまき: ワクワクしますね!自分のファッションが、地球の未来と繋がっていると感じられそうです。 川瀬: そんな想いを、このズボンに乗せています。ですので、ぜひこの製品を履いてみた率直な感想を、皆さんから教えてもらいたいですね。
かねまき: 最後に、この記事を読んでくださっている読者の皆様へ、地域CCUの新たな挑戦にかける想いとメッセージをお願いいたします!
川瀬: 「CO2を使う」と聞くと、なんだかすごく難しい話に聞こえますよね。でも、きっと誰もが子供の頃、ペットボトルや牛乳パックで工作をした経験があると思うんです。何かものすごいものを作る必要なんてなくて、今まで捨てていたものを使って、まず自分が楽しんでみる。それだけでも、環境が良くなる素敵なきっかけになるかもしれません。「こんなことできるかも!」という小さなワクワクを一つひとつ楽しんでいく先に、炭素循環が進んでいく。そうすれば、なんだか難しく捉えられがちな環境活動も、みんなが参加できる“お祭り”のような活動になるんじゃないかと、そんな未来を期待しています。


プロフィール
川瀬 広樹
日本特殊陶業株式会社 エネルギー事業本部 カーボンリサイクル開発部 CCU技術課 課長
2009年日本特殊陶業入社。総合研究所に配属され、水素製造装置の開発に従事。2021年より地域でCO2を活用する地域CCU構想の立ち上げメンバーとして参画。
デニム製作協力会社
さとうきびの搾りかすである「バガス」などの未利用資源を活用した、環境負荷の低い新素材(紙、糸、生地など)の開発、製造、販売を行っている会社です。